こんにちは。上原です。
今日は、「ホルモン補充療法は変形性脊椎症のリスクを減らす」という2017年に韓国から報告された論文をご紹介します。
そもそも、男性よりも女性の方が変形性関節症になりやすく、また閉経後の女性は男性よりも腰痛が多いと言われています。ということは、変形性関節症の進行に女性ホルモンの影響があるのではないか。もしそうならばホルモン補充により変形性関節症を予防することができるのではないかとこの研究グループは仮設を立てたわけです。
目的:
変形性脊椎症に対するホルモン補充療法(HRT)の影響を調べる
方法:
第5回韓国国民健康・栄養調査(2010~2012年)のデータを使った横断研究
参加者:
全25534人の中から、男性11616人を除外。そこから閉経前の女性9372人を除外。最後にデータ不足の281人を除外し、残った4265人のデータを用いて解析した。参加者の平均年齢は64.3歳(50~94歳)。変形性脊椎症の有無は、単純レントゲンで明らかな変形があり、脊椎の痛みがある場合に変形性脊椎症ありと判断された。
結果:
4265人の参加者のうち、変形性脊椎症ありと判断されたのが904人。HRTを行っていたのが588人。コントロール群と比べ、配偶者あり、高い教育レベル、高収入、HRTを行っている場合、変形性脊椎症のリスクが低いという結果であった。また、HRTは変形性脊椎症のリスク低下と有意に関連していた(オッズ比0.717)。HRT群の中で比べると、喫煙者は非喫煙者よりも変形性脊椎症のリスクが有意に高かった。また、1年以上HRTを受けている女性は、1年未満の女性と比べて有意に変形性脊椎症のリスクが低かった(オッズ比0.686vs0.744)。変形性脊椎症群で見てみると、HRTを受けている女性の方がそうでない女性よりも有意に少なかった。
結論:
HRTを受けている女性は、変形性脊椎症の有病率が低かった。また、HRTは変形性脊椎症の罹患率の低下と相関した。
考察:
多くの動物実験において、卵巣摘出術は変形性関節症を誘導すると報告されている。一方、エストロゲンの補充は軟骨変性を遅らせるという報告もある。Baronらは、エストロゲンが十分にある女性は、そうでない女性よりも十分な椎間板を維持していたと報告した。長期間のHRTを受けた女性は、受けていない女性よりもレントゲン上の膝や股関節の変形リスクが低いという報告もある。本研究では、HRT群は変形性脊椎症の有病率が有意に低いことがわかった。したがって、HRTは変形性脊椎症を予防できる可能性がある。また、HRTの継続期間が1年以上と1年未満で比べると、1年以上の方が変形性脊椎症の有病率が低かったことから、HRTの継続もまた、変形性脊椎症の進行防止のために重要であることが示唆された。
コメント:
2017年度版のホルモン補充療法ガイドラインでは、「器質的疾患が否定され、更年期障害の一症状と考えられる腰痛に対してHRTは有効である」とされています。つまり、今までのエビデンスでは、腰椎椎体骨折による変形、脊椎症、脊柱管狭窄症、ヘルニアなどの器質的疾患がある場合はHRTを行っても腰痛の改善は期待できず、それらが否定された腰痛については改善が期待できる、ということです。しかし、その機序は未だ解明されていません。今回の論文は、器質的疾患である変形性脊椎症が、HRTにより予防できそうだという結果を示しました。その機序はこの論文では示されませんでしたが、エストロゲンは関節軟骨、滑膜および靭帯に分布するエストロゲン受容体に作用し、その変性変化に関連していると考えられており、HRTにより椎間板の変性を遅らせた可能性があります。Baronらによる「エストロゲンが十分にある女性は、そうでない女性よりも十分な椎間板を維持していた」という報告や、多くの動物実験より、エストロゲンの補充は軟骨の変性を遅らせるという報告もあります。
ただし、今回の研究では腰痛が変形性脊椎症による痛みなのか、他の原因による痛みなのか分類がされていないこと、また、横断研究なのでHRTにより変形性脊椎症による痛みが改善したかどうかは判断できないことが研究限界として挙げられています。
しかし少なくともHRTを受けている女性は受けていない女性よりも変形性脊椎症のリスクが少ないという今回の結果は、HRTは変形性脊椎症の進行を予防する有用な治療法である可能性が示唆されました。変形性関節症の進行抑制は難しいと言われることが多い中、このような研究結果は痛みで悩む方々の光となるのではないでしょうか。変形性関節症と言われながら治療法がなく、痛みで悩んでいる方は、一度試してみると良いかもしれません。